-京都大発特許で米国企業との協力契約-
1.背景
経産省の CREST 計画「低環境負荷エネルギー用複合機能構造材料の開発研究」(1997 年-2002 年:京都大学エネルギー理工学研究所 研究代表:教授 香山晃)において開発され、特許化されたナノテクノロジー技術(以下、NITE 法)は、京大発のベンチャー企業の活動と並行する大学における大型研究を通して、実用化研究が進められてきました。しかし、国内での本格的な実用化には多くの困難が伴うため、海外の企業との連
携を検討してきました。その結果、本年米国企業(AXIOM Materials Inc.)への特許権使用が特許権を保有する科学技術振興機構(JST)に認められ、さらにベンチャー企業である株式会社 NITE(代表 香山晃)が技術供与及び共同開発契約を結ぶことにより、世界初となる炭化物系セラミック複合材料の大型連続製造設備が開発され、間もなく試験稼働が始まります。大量生産されるプリプレグシートを重ねたプリフォームを成型する
ことで多くの製品が作られます。
炭化物系セラミック複合材料としては、炭化ケイ素(SiC)繊維で強化された SiC/SiC 複合材料が航空宇宙や原子炉・核融合炉材料として期待されていますが、大規模な製造に対応する技術は NITE 法以外には存在しません。炭素繊維で強化された C/SiC 複合材料も自動車のブレーキなどでの大きな需要が見込まれます。
2.研究手法・成果
本 CREST 計画では、環境低負荷型の社会システムを開発するという研究プロジェクトの一課題として、環境にやさしく、高効率なエネルギ―生産に必須となる耐環境性高温材料の開発を考え、セラミックス複合材料の開発に着手しました。セラミックス複合材料の製造法には、原理としてはよく知られているいくつもの方法がありますが、これらを新しい技術の観点から見直すことにしました。特に素材を考えるうえでナノテクノロ
ジーを駆使することを考えました。その一つとして SiC ナノ粉末を世界中から探し、入手できるものについて特性の評価を進めました。この検討は、従来技術である化学気相蒸着法(CVD)、液相焼結法(LPS)、反応焼結法(RS)、ポリマー含浸焼成法(PIP)においても特性の大きな改善をもたらしました。しかし、NITE 法はLPS 法の進化したものであり、これまでの材料が実現できなかった高密度化や気密性の飛躍的な改善などを実現することができ、初めて原子炉で使う材料としての気密性や加工性、接合性などの要求性能を満たすこととなりました。
比較的小型の材料評価試験棟で用いる材料の製造は株式会社 NITE で行いますが、米国の原子力プロジェクトでの評価試験や航空機等での利用に向けた素材試験には製造能力の 1000 倍以上の拡大が求められ、国内での実現はほぼ期待できない状態となりました。このように NITE 法によって製造される材料は、基本特性としては優れているものの、需要を満たす安定した材料の供給源がなく、実用化が遅滞していました。そのような状態の中、米国の企業が、米国政府の支援も受けて進めることを決断し、今回の活動が実現しました。
東レが炭素繊維の開発を続け、爆発的な世界市場を生み出し、炭素繊維(C繊維)が幅広く使われるようになりました。C繊維の約 5000 億円の世界市場において我が国は 1 位から 3 位を占めており、50%以上のシェアを維持しています。大部分は複合材料の強化繊維として使われています。現在 SiC 繊維の供給も最近の国際企業連合(日米仏の合弁会社)の活動により数年前から 1000 倍以上の生産規模へと拡大しています。今後、NITE 法によるプリプレグシートの生産によって、大量の SiC 複合材料の供給が可能となります。これにより、C 繊維強化複合材料の世界的な市場拡大と同様の市場形成と拡大が見込まれます。本計画では、材料科学の基礎研究をベースとして新しい概念のプロセスを創出し、極限用途での使用に耐える材料構造を生み出しました。そして、この概念を実現させるためのプロセス検討等を企業とも協力して進めることにより、今回の大規模生産に向けるプロセス装置設計の基礎が出来上がっていきました。この材料開発の歴史は、さらに新しい材料の開発においても生かされると思われます。
3.波及効果、今後の予定
CREST-ACE 計画とそれに続く大型プロジェクトにより、NITE 法によって製造される SiC/SiC 複合材料の優れた特性が材料科学的にも証明され、海外の国立研究所や第三者機関等による評価において追認されてきたことは重要です。原子力用の材料開発として通過しなければいけない原子炉実験をいち早く実現させたことは重要ですが、この成果を実用化に結び付けることは、大学や公立の研究所の仕事の枠をはみ出します。今回の
ように積み上げられた成果が実用化能力を有する大企業によって有効利用され、社会の持続可能な発展に貢献できることは、大型プロジェクトの目指す目標の実現にほかありません。
国産の技術を国内で事業化することが理想でしたが、大学の技術を企業活動にもっていく手法をベンチャー企業で、リスクを最小限にして進めることで思うように進展できなかったことは悔やまれます。大企業との共存などを上手に進めることが重要だったと反省します。
原子力開発や軍事関連活動に対する反発が先進技術開発において多くの応用分野を制限し、発展を遅らせる事になっていることは、社会倫理との共生も含めて今後の重要な課題であると考えます。
4.研究プロジェクトについて
CREST-ACE 計画は経済産業省の予算でした。この計画には大学(大阪大学、北海道大学、東京大学など)・国立研究所(物質・材料研究機構など)・公立研究機関(日本原子力研究開発機構など)・企業(東芝、宇部興産など)なども参加し、関連する多くの研究者や技術者を含む活動となり、研究領域の活性化にも大きく貢献しました。国際的にも IAE や IAEA の関連開発計画のグループにおける貢献度は高かったと考えます。その後の原子力や核融合関連の活動、地熱開発事業、航空宇宙関連の活動等も文部科学省や経済産業省の研究予算で進められ、3 年から 6 年の長期大型予算によって支援を受けたことは今回の成果につながる大きな要因です。
<研究者のコメント>
今回の成果は研究代表者(香山)にとっては大学での卒業研究からスタートし、材料科学の基礎を常に軸として進めてきた活動です。固体物理の基礎研究が最終的には幅広い分野で用いられる工業材料として世界に羽ばたこうとしていることは感無量です。50 年を超える大学の枠を超えた活動が多くの人材も生み出し、社会貢献もしながら新材料の実現に至ったことは持続・継続すること、基礎科学の重要性を示しています。
<お問い合わせ先>
香山 晃 (こうやま あきら)
株式会社 NITE 技術統括, 京都大学名誉教授
〒277-0005 千葉県柏市柏 1127 番1オークリバーズ宮前504
TEL:04-7179-5390
FAX:04-7179-5391
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